日本計量新報 2009年1月1日 (2755号)2部11面掲載
基礎科学のおもしろさがわかる教育を普及させたい
ぼくが理事長を務めている平成基礎科学財団をつくろうと思ったのは2002年9月のことでした。当時は、マスメディアで国立大学の独立行政法人化が取り上げられていたころ。ぼくは、独立行政法人化それ自体に反対するつもりはなかったのですが、心配な点もありました。
独立法人になれば、財政は独立採算制になるわけですが、そうなると採算のとれる分野、とれない分野で差が出てきてしまうのではないか。応用科学を担う工学部や農学部、薬学部などは、目に見えた成果があがりやすく、産学協同で進められるためお金の心配は少ない。
ところが、例えば文学部や理学部などは冷飯を食わされてしまうのではないか。
そんな日陰の学部に優れた人材が行くでしょうか。こうした基礎科学分野は、わからないことを知りたいという興味や関心から出発します。すぐに成果が出るわけではないので、産業界からのまとまった支援が期待できないのが実情です。
そこで、若い人たちに基礎科学の面白さがわかる教育を普及しようと、財団を立ち上げることを思い立ちました。しかし、財団をつくるには1億円の資金が必要です。当時、イスラエルのウルフ賞の賞金500万円が預金通帳にあるだけ。資金不足に加え、友人からも、この低金利時代、何十億円の財団でもヒーヒー言っているのに無謀だと言われました。
でも、ぼくは自分がやりたいと思ったことは、やめようと思えないんですね。どうしようかと思案していると、ストックホルムから電話がかかってきました。ノーベル賞の知らせです。賞金は3500万円。これで貯金と合わせて4000万円ができました。
いいところまできたと思い、カミオカンデの共同研究で付き合いのあった浜松ホトニクス(株)の社長さんにお願いしたところ、「わかりました」とその翌日に6000万円を振り込んでくれました。
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